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アイン・ソフ

ainsoph.pngアイン・ソフ
ちょうど一ヶ月前の今じぶん、吉祥寺のStar pine's cafeでアイン・ソフのライブを観ていた。アイン・ソフというのは、神戸のジャズ・ロックバンドである。わしが中学だか高校のころ、たいへん贔屓にしていたグループだ。

当時はまだフュージョン隆盛のころであったが、アイン・ソフはあくまでイギリスのカンタベリー・サウンド(ソフト・マシーンを祖とする一群の音をさす)にこだわる音を出していた。80年、キング・レコードから発売された1stアルバム「妖精の森」(写真)をはじめて聴いたとき、そのテクニックと完璧な構成に「これはほんとうに日本のグループなのか」と、宣伝文句どおりのショックをおぼえたことを記憶している。

まだイタイケな学生だった当時のわしからすれば、「はじめてのカンタベリー」だったわけ(大学で一気に狂い咲きするのだが)で、いまでもこの手のサウンドのなかでは最も思い入れのあるアルバムのひとつだ。

しかしファースト発表後、ドラムの名取寛とキーボードの服部眞誠が脱退し、代わりにベラフォンの富家大器(drum)と初代メンバーの藤川喜久男 (keyboards)が参加。86年の2nd「帽子と野原」以降はだいたい安定したメンバー構成で活動をつづけ、91、92年には立て続けにアルバムを発表、94年には通算三作目となるライブ音源もCD化するなど大いにファンを喜ばせたが、その後バッタリと活動を休止してしまう。その理由は明らかであろう。彼らはおのおの喰うための職業を別に持っているのだから。

それが10年ぶり、しかも吉祥寺で復活というのだから行かないわけにはいかない。チケットが3,000円とお得なので喜んでいたのだが、だいたい100人くらいですぐ満タンになるハコだから、プロモーターやお店側に落ちる金を差し引くと、メンバーに渡されるギャラはせいぜい新幹線代+宿泊費くらいじゃないか。自営業をやっているとすぐこんなところばかり心配してしまう。

上がりを補うためか、過去のライブ音源をCD-Rに焼いたオフィシャル・ブートを即売しており、メンバーの奥さんと娘さんとおぼしき方々が対処していた。このCD-Rは一枚一枚、奥さんの手焼きであろうか。家内制手工業であろうか。またしても自営業的妄想が頭をもたげ、ここは買わなくてはモードになるものの、しっかりトモダチに買わせることに成功した(貧乏はつらいよ)。

それはどうでもよい。肝心のパフォーマンスはどうか。やはりスタートは指先がまだ暖まってないのかヘグっていたが、中盤の大曲あたりから山本要三(通称Yozox)のギターが気持ちよく唸りはじめる。ベースの鳥垣がリズムの要となり、キーボードの藤川と共に全体のテンポを支配していた。富家のドラムは残念ながらリズムにバラつきがみられ、他メンバーのアンサンブルとはいまひとつかみ合っていなかった。彼らの曲は変拍子を多用した超絶な曲が多く、ドラムは拷問的な動きを強いられる。個人的にはやはり名取寛の脱退が惜しまれるところだ。

アイン・ソフの魅力としてよく指摘される点は、イギリス仕込みのテクニカルなサウンドでありながら、メロが大らかに謳いあげる叙情も兼ね備えているところだ。そこらへんはキャメルゆずりといえなくもないが、アイン・ソフの音にはもっと湿度を感じる。特に、山本要三のギターには叫びというよりも、独白にも似た息苦しさ、切なさがある。彼がたまに見せるたどたどしいフレージングは、人間の弱さ、情けなさのような心情がいかに美の本質と結びついているかを見事に証明している。

アルバム「妖精の森」では、あくまでクールに徹する服部と、この山本の感性が真っ向から対立し、一触即発の尋常ではない空気の中でレコーディングが敢行されたらしい。プロデューサーのたかみひろし氏によれば、殴り合い寸前だったという話だ。そんな経緯を含めてファンのあいだでは評価の低いアルバムなのであるが、私にとってはこれくらい緊張感がないとバンド・アンサンブルとはいえないってくらい気に入っている。今から思えば、このピリピリした空気感こそ、和製バンドとはとうてい信じられなかった最大の理由だったのだ。

五十路をすぎたメンバーたちはさすがに体力的には厳しいらしく、一曲終わるごとにトークをはさみ呼吸を整えていたが、集中力にはまったく衰えがなかった。とくにキーボードの藤川はブランクを感じさせない鬼気迫るパフォーマンスで、若い頃よりもむしろ過激になったといえるほどだ。バンド休止中も研鑽を積んでいたことがイヤでも音から伝わってくる。

ついつい長くなりすぎた。どうもアイン・ソフのことになると熱くなっていけない。最後にひとこと。「妖精の森」は長らく廃盤のままとなっている。今回の復活をきっかけに、デジタルリマスター盤のリリース(それもDSDで)を期待したい。

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