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自分のための人生

4837955983.png自分のための人生  
ウエイン・W. ダイアー (著)
渡部 昇一 (翻訳)
1,365 (税込)
三笠書房

以前ブログで紹介した『論理療法 自己説得のサイコセラピー』が思いのほか好評だったので、かれこれ10年以上も前から愛読している関連書を紹介することにしたい。

この本はいわゆる通俗本というやつで、決して心理学の専門書ではない。だから文中にも論理療法という言葉はいっさい登場しない。しかし、全編をつうじて述べられていることはまさに論理療法(*)そのものとしかいえない内容であり、その証拠に、この筋の元祖ともいうべき心理療法家、アルバート・エリスの概念がさりげなく引用されている。

著者のダイアー自身も、心理療法家としてのキャリアをもっていることから考えて、おそらく論理療法をもっとわかりやすく、大衆向けに広めたいというアイデアがあったのは間違いない。

解説のなかで訳者の渡辺昇一氏は、「この本を読んだ人は、ヒルティの『幸福論』やエピクテトスを想起されるのではないか」といった主旨の鋭い指摘をされている。たしかに、そのままといってもよい言葉も散見されるが、やはり論理療法というストア哲学の現代風アレンジがなかったら、『タイム』誌のベストセラー・リストの一位をこれほど長期にわたって独占するような本が生まれることもなかったと思う。そもそも、原題の「Your Erroneous Zone(あなたのエラー・ゾーン)」は、論理療法の中心的な概念ともいうべき「irrational belief(不合理な信条)」を言い換えたものにすぎない。

いや、こんなことを書いている場合ではない。『自分のための人生』の話に移ろう。この本のいい点は、まず訳がわかりやすいことである。渡辺昇一氏は英語学者であるが、漢詩や和歌、日本史にも造詣が深く、彼の訳書は安心して買うことができる。というより、外語系の人が書く日本語はとにかくわかりやすい。国語のテストによく出題される外山滋比古氏も、英文学の先生だ。「外国語を知らないものは国語を知らず」というのはなるほど真理である。哲学者はもっと語学をやるべきだ。

またしても話がそれてしまった。ダイアーのいいたいことは一言でいうと何であろう。おそらく「他人にふりまわされるな」ということにつきると思う。他人の目を常に意識しているような人間は、絶対に幸福になれないということである。それでは、他人を気にせず、なんでも自分のやりたいようにやっちゃっていいのだろうか。結論からいうと、それでいいのである。そんなことをすると他人が犠牲になるとか、誰でもやりたくないことをガマンして頑張っているから社会は成り立っているのだとか教える人は大勢いる。しかし、自分の求めるものを純真に追い求める人たちがいなかったら、アメリカという国そのものもなかったはずだし、ましてや人類がサルの仲間から遊離することもなかったであろう。

考えてみてほしい。あなたの遠いご先祖サマが、群れの仲間から「みんな木の上で生活しているのだ。君だけ地面に降りて、遠くの世界を見てみたいなんてことをするなら、ボスにいいつけてこらしめてもらうけど、それでもいいのかい?」と決断をせまられた日のことを。我々はどちらの子孫だろうか。

ページをめくるにつれて、いかにわれわれがつまらない思いこみに縛られているのかを思い知らされる。親だろうが、恋人だろうが、上司だろうが、不合理な意見に従う義務はない。一般に、愛情という文脈で語られる言葉のなかにも、いかに偽善が含まれていることであろうか。真の愛とは、何かを強要したり、あきらめさせたりする類のものではない。キリストの生きザマを見よ。彼は何かを無理強いしたであろうか。むしろ、人間を自由にせんとしたがためにサルどもによって捕らえられ、死罪にされたのである。

またしても熱くなってしまった。最後に、手元にあるダイアーの著作を紹介しておこう。彼の訳書はすべて三笠書房から出ている。三笠といえば、オヤジ本の至宝ともいえる出版社であり、書名と本文中の見出しがダサいことをのぞけば、いわゆる自助論(セルフ・ヘルプ)の良書をしっかり揃えているところだ。タイトルをみて思わず引いてしまう方もおられると思うが、内容はすばらしいのでぜひ手に取ってみてほしい。ちなみに、原題はまったく違います。

『どう生きるか、自分の人生!--今日を後悔しない生き方 ダイアー博士の「生活哲学」』
『もっと大きく、自分の人生! 』
『小さな自分で一生を終るな!--人生に奇跡を起こす生きかた 』
『自分の中に奇跡を起こす!--いかにして自信と富を得るか』
『"勝ちぐせ"をつけるクスリ--自分の中に奇跡を起こす「ダイアー哲学」』
『自分を掘り起こす生き方』
『「いいこと」が次々起こる心の魔法--この"奇跡の力"が自分のものになる!』
『眠りながら奇跡を起こす少女』

ブックオフでもアマゾンでも、かなりの安値で買うことができるので、ぜひ手に取ってみていただきたい。極端な例をいうと、アマゾンでは1円台から売られている。

ダイアーは、論理療法の手引き書とでもいうべき本書が売れに売れたことで、金には一生困らない生活を手に入れた。その後の彼の著書は、どこか超俗的というか、他人の意見がどうのこうのという次元を超えて成立しているように思う。これを心理学の立場から描写するとすれば、論理療法から人間性心理学、トランスパーソナル心理学へと、彼自身の考え方も大きく衣替えをしたといえよう。しかしながら、『自分のための人生』がいちばん読み応えありということに異論はないと思う。

(*)「論理療法」という訳は明らかに失敗ではなかったかと思う。字面からして学者然とした、冷たい印象を読者にあたえてしまうのではないだろうか。原語の「Rational therapy」を素直にとらえ、「合理療法」とでもしたほうが通りがいいと思うのだが。

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