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神の指紋−フラクタル幾何学

 この学問も、かたちという物を考える上で、大変参考になるものです。何といっても、自然界にあるさまざまな形−雲、山の輪郭、葉っぱの形などが、単純な数式から導くことができるというのですから、なんともザッパーな幾何学です。

 この幾何学の特徴は、「自己反復」にあります。まるでレゲエのリフのように飽きるくらい計算を繰り返し、座標面にプロットしていきますと、なんとも不可思議な模様が浮かび上がってきます。あるものはシダ類の葉のようですし、あるものは海岸線のようでもあります。「フラクタル」という言葉が、もともとラテン語の「フラクトゥス(破片・断片)」に語源があるように、複雑な図形も、もとはといえばたった一つの数式の断片、もしくは形の切れ端だというわけです。

 この世にあるさまざまな形を数に還元しようという試みは、ピタゴラスやプラトンが好んでテーマにしたものですが、現代社会はコンピュータというクソ真面目なリフレイン実行装置を手に入れて、ますます複雑な形を単純な図形からつくりだせるようになりました。とくに、フラクタルデザイン社(*1)のお絵描きソフト「ペインター」はフラクタル幾何学の成果をぞんぶんに取り入れています(水彩のにじみ、雲模様、マーブリングなど)。「ブライス」という地形作成ソフトなどは、まさにフラクタルによって、空模様から海面、山脈まで簡単に描いてしまうのですから驚きます。

 フラクタルのような同じ図形の反復は、実をいうとずいぶん昔から知られてはいました。エッシャーもその一人です。彼の絵は眩暈を起こしそうな図形の魔術によって描かれています。他にも伝統的な民族工芸にもフラクタルが生きづいています。着物の柄とか、タペストリー、土器などに描かれた紋様は、無限に反復可能な図形が描かれていることが少なくありません。このような「リフレインの美学」においても、古代と現代の美意識は妙に呼応します。

 余談ですが、ロックやジャズもこのリフが命です。キングクリムゾンの曲に「フラクチャー」という名曲があります。これもある音の断片の反復が、いつのまにか有機的にからみあい、最後はチョーカッコイイ盛り上がりを見せるというものでした。音楽の世界では「リフ」という形でフラクタル的な美を無意識のうちに多用しています。クラシックでも、バッハやバルトークがこれをもっとも得意とし、意図的に自作の中に組み込んでいたことが知られています。

(*1)現在はCorel社に買収されている。
(*2)バッハ「無限のカノン」、バルトークは音程にフィボナッチ数列(黄金分割数列)を導入した。

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