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掛塚聖堂--崩壊してもなお石を積む老人の執念

掛塚聖堂半壊した掛塚聖堂。この建物は、たった一人の老人の手によって、倒壊にもめげず建築されつづけた。写真=藤塚光政。(クリックで拡大)
日本の最西端、長崎県五島列島福江市のはずれに、半壊したまま野ざらしになった奇妙な建築物が今も残っている。それは、一人の、夢と妄執にとりつかれた老人の建築したものであるため、その名をとって掛塚聖堂と呼ばれた観音堂なのである。

昭和22年、当時49歳の大工・掛塚留吉にとって決定的な出会いが訪れた。九州各地に88か所霊場を建立せんとする仙人・古賀観清に、彼は、観音堂を1つ建てることを依頼されたのだ。場所は、熊本の秘境・五家荘。そこにはすでに、仙人の作った夢見観音像が野ざらしのまま置かれていた。その観音像を見たときに、掛塚は霊縁を感じ、観音堂建立を自らの仕事と確信したという。

kakezuka_yumemi.png掛塚聖堂の観音像。御堂の崩壊とともに、この像は瓦礫の下に埋まってしまった。写真=長崎県福江市役所。(クリックで拡大)
以来、掛塚はこの人里離れた五家荘に幾度も足を運び、御堂を建立しはじめる。が、台風による倒壊や、村人に観音様のご利益がないとみなされたことなどにより、夢見観音像は五家荘を追い出されることになった。だが約束は約束、なんとしてもやりとげねばならない。掛塚は、自分の故郷である五島列島に観音像を持ち帰り、御堂の建立を再開することにした。

山奥の五家荘から離島まで、彼の、一人ぼっちの運搬がはじまった。港までほぼ60キロの行程を、引き下ろすのに8か月はかかる。観音像を特製の大八車にのせて、雑草、かん木をなぎ倒しての難作業であった。

そして古賀仙人と出会ってから10年目にして、ようやく本格的な建築段階に入った。もはや、この時点で、彼の塊は、執念に懸かれていたのだ。全財産をなげうって土地を購人、築材を集め着工しはじめるが、3年後、完成を目前にして、五島列島を襲った集虫豪雨のため、観音堂は大破する。

挫折から再起へ。今度は木製ではなくコンクリートで造りはじめた。すでに鉄筋を買う余裕もなく、クズ鉄や針金を何重にもたばねて芯にする作業の日々......。生活は貧窮をきわめ、近くの病院の善意にすがって食事をし、住むのも観音像の脇に建てたトタン小屋住まい。そのころの彼の精神状態はいかばがりだったろう。

kakezuka_tomekichi.png故掛塚留吉老人。写真=藤塚光政。(クリックで拡大)
そして昭和60年の秋、列島を直撃した台風により、再度、御堂は崩壊。それでも90歳近くなった老人は、建築をやめなかった。瓦礫の山の上で、ひとり、鼻をすすりあげ、小便をもらしながら石塊を引きずる姿は、まさに鬼気迫るものがあったという。すでに、観音像は瓦礫の下に埋まり、どこにあるかもしれない状態であるのに。

現在、その掛塚老人の姿を瓦礫の上に見ることはない。彼はその後、衰弱し亡くなったということである。そして、その壮絶な人生を受け継ぐ者もなく、御堂は放置されたままとなっている。

この悲話にもまた、建築がみずから浄土空間と化そうとしたという、不思議な意思のようなものを感じることができないだろうか。

「異形の建築ミステリー大図鑑」1989.8 学研『ムー』No105

※観音像の前に立つのは留吉の若き日の姿であろうか。朝日新聞で「奇想遺産  」の連載をやってますが、「掛塚聖堂」こそぜひ掲載してほしい。フェルディナン・シュヴァルの「理想宮」と哀しく対をなす、この忘却された聖堂こそ、電子空間に永遠に記しておかねばなるまい。

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