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モルヒネ・ヴァリエーションズ1-3

(注)「モルヒネ日記」とは、ぼくが危篤で半覚半醒になったときに見た悪夢を見たとおりにそのまま書いたものです。もちろん実在の人物や団体とは一切関係ありません。ただ書くという行為により恐怖の記憶を排泄せんとするものです

目が覚めると女性が座っていた。
列車の窓が大きく開け放たれていて、その窓枠に手足が長い背高の女が窮屈そうに足を折り曲げて腰かけていた。

「naraさん私のことおぼえてる?」

看護師のZさんだった。Zさんがここにいるってことはもしかしてやっぱり死んでないのか? とにかく新しい展開が起こったことに私は興奮した。この世界で初めて会う人間に声が上づった。

「忘れるわけないっしょ。でもなんでZさんがここにいるの? オレの受け持ちでもないのに」

「今日はさ、naraさんを埋葬するはんで、ヘルプさ来たの。あとでXさんも来るがら」

「オレの埋葬?」

「うん、私は死んでないと思うんだけど、みんなもうnaraさん死んでるはんで看護しなくていいって」

「だってこうやって話してるし、死んでないよ。オレも死んだって思ってたけど、Zさんと話してるんだから死んでないよ」

「わだしはnaraさんが死んでるかどうか自分で決められないのさー。朝のミーティングで主任に言われただけで。ごめんねー」

二人はいつまのにか海岸にいて、静かに波が打ち寄せる砂浜を歩いていた。空は曇ったままだった。後方から年配の医師と看護師のXさんが我々を追っていた。二人は六角形をした木製の棺を重そうにかかえていた。砂場なので歩きにくそうだった。

「じゃこれから埋葬しますからねー。話はだいたい聞いてるよね?」

初めて見る医者だった。歳は六十路くらいだろうか。品格のにじみ出た厳しい表情をしていた。この作業に手慣れている様子らしく、彼は無駄口をいわず事務的に処理を進めた。

私の身体は、小学生のころ家にあった足踏み式ミシンの上に移され、棺の真横に寝かされた。ちょうど病院でベッドからストレッチャーに移すときのように、3人は私のカラダの各部を一気に持ち上げようとした。そのとき、突然Zさんが急に手を離して叫んだ。

「やっぱり私でぎない。naraさん生ぎでる! 生ぎだまま土さ埋めだりとか私できない!」

私の身体はバランスを失って砂の上に崩れ落ちた。

...そうだよ、Zさん、オレ生きてるよね。みんなにちゃんと説明してよ。話できるって...

みなの声は聞こえるのに、自分の声は誰にも聞こえないらしかった。Xさんが叫んだ。

「何いってるの! 私も最初生ぎでるって思ってらけど、眼鏡かげでよぐ見へんが! 身体中にカビ生えでるべさ! あんた近眼だはんでわがらないんだよ。私も目悪いはんで生きでると思って看護してきたけど、他の人は死んだってわがってらんだよ。知らなかったの私たちだけだったんだよ。見へんが! これだばドロドロの青カビのほうがまだましだべ! 気持ち悪い。早く埋めて帰るべし!」

年配の医者は暴れるZさんを押さえこんだ。Zさは精神が錯乱したようで砂場に座りこんで動かなくなってしまった。

二人はなんとか私を棺におさめ、医師がその蓋を重そうに棺の上に置いた。太い木枠に厚手のガラスがはめ込まれており、表面には真鍮製のプレートが錨打されていた。そこには次のような刻印字がみえた。

--生きながらにして死んだ男、ここに眠る--
彼は生前、何事も成すことなく、全てを無為のうちに過ごした。彼は自らの死さえも完遂することができなかった

モルヒネ半覚半醒記2-2

(注)「モルヒネ日記」とは、ぼくが危篤で半覚半醒になったときに見た悪夢を見たとおりにそのまま書いたもので...

モルヒネ・ヴァリエーションズ2-...

(注)「モルヒネ日記」とは、ぼくが危篤で半覚半醒になったときに見た悪夢を見たとおりにそのまま書いたもので...

モルヒネ・ヴァリエーションズ1-...

(注)「モルヒネ日記」とは、ぼくが危篤で半覚半醒になったときに見た悪夢を見たとおりにそのまま書いたもので...
 

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