ひま
ボンディ 書くのは好きですか?
シオラン 嫌いですね。それに私の書いたものは、ごくわずかです。たいてい、私は何もしていない。私はパリで一番ひまな人間で、私よりひまな人間といえば、ま、客のつかない売春婦くらいのものでしょうね。
反動家
ボンディ あなたはよく反動家よばわりされていますね。
シオラン 私は反動家ではない、反動家以上ですよ。あるとき、アンリ・トマが私に、「きみは一九二〇年以降の事態にすべて反対なんだね」と言ったことがある。私は「いや、アダム以来だよ!」と答えましたがね。
シオラン著 金井 祐訳『シオラン対談集 』法政大学出版局 叢書ウニベルシタス586
年齢
年齢は、なんともみごとに、一切を単純化してくれる。図書館へ行き、本を四冊、私は出してもらった。うち二冊は、活字が小さすぎた。中身を吟味もせずに、この二冊はやめることにした。三冊目は・・・まじめすぎた。とても、読むに堪えない。こうして四冊目の本を、なんの確信もなく、 私は借り出してきた。・・・(P54)
品質保証
老年についての本を、一冊、走り読みした。理由はただひとつ、著者の写真に惹かれたからである。冷笑に哀訴をまぜあわせ、麻痺もあらわにしたかめた顔。なんというみごとな広告であろうか。なんという確実な品質保証であろうか。(P31)
作者
わたしの本、おれの作品・・・この所有詞のグロテスクな一面。
文学が作者不明のものでなくなった時から、一切が墜落した。退廃のみなもとは、最初の作者にある。(P167)
成功
古代人たちは、成功というものに不信を抱いていた。それも単に、神々の嫉妬を怖れたというだけのことではない。どんな類いのも のにせよ、成功は、かならず内的な均衡喪失をともなうと考え、その危険をこそ怖れたのである。成功の脅威を知っていたとは、現代人にくらべて、なんという 優越ぶりであろうか。(P18)
弟子
一字も書いてない紙の上を、小さな羽虫が全速力で這っていく。「なんだってそう急ぐのかね。どこへ、誰のところへ行こうというん だ。やめとけ、やめとけ」---夜の夜中に、私は大声を出した。羽虫のやつが、それで怖気づきでもしたら、どんなにか私は満足したことだろう。弟子を獲得するのは、想像以上にむずかしいことである。(P237)
シオラン著 出口裕弘訳『告白と呪詛 』 紀伊國屋書店 1994





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