...暑中に灸(きゅう)をすえる感覚には涼しさに似たものがある。
暑い盛りに熱い湯を背中へかける感じも同様である。これから考えられる一つの科学的の納涼法は、皮膚のうちの若干の選ばれた局部に適当な高温度と低温度とを同時に与えればわれわれはそれだけで涼味の最大なるものを感じうるのではないか。
あるいは一局部に適当な週期で交互に熱さと寒さを与えるのがいいかもしれない。これは実験生理学者にとって好箇(こうこ)の研究題目となりそうなものである。
この仮説を敷衍(ふえん)すれば、熱い酒に冷たい豆腐のひややっこ、アイスクリームの直後のホットカフェーの賞美されるのもやはり一種の涼味の享楽だという事になる。
皮膚の感覚についてのみ言われるこの涼味の解釈を移して精神的の涼味の感じに転用する事はできないか、これもまた心理学者の一問題となりうるであろう。
寺田寅彦『備忘録』
--一局部に適当な週期で交互に熱さと寒さを与えるのがいいかも
「悲」と「喜」
「苦」と「楽」
「幸福」と「不幸」
このような感覚も適当な周期で与えられるのがいいと思いました。