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シッタンナヴァサル石窟寺院フレスコ画:Sittannavasal

タミル・ナードゥ州の街、プッドゥコタイからバスで一時間ほど行ったところに、シッタンナヴァサルという無人の土地がある。旧石器時代の遺跡のほか、ここには美しい壁画をもつジャイナ石窟寺院があることでも有名だ。岩山が風景を圧してそそりたつ、プレ・ヒストリカルな土地である。

 この土地の住民は、なんと孔雀だけであった。紺色の羽をチロチロと引きずりつつ、岩の上でゲーッ、と鳴いている。あたりは風の音と、孔雀の鳴き声だけなんて、なんだか夢の続きを見ている気分だ。毎度ながらジャイナの巡礼地は、へんぴな土地ばかりである。

 石窟寺院の内部にフレスコ画が描かれたのは、九世紀パーンディア王朝の時代だという。植物顔料だけを使って重ねられたこの色彩の森は、時という神の顔料と調合をくりかえし、さらに深みを増しているように思えた。

 壁画に描かれた僧侶や動物たちの表情は、南インドの民そのままの微笑に満ちている。またこの絵には、ヒエロニムス・ボスの「快楽の園」のように、動物、植物、人間との間が陸続きになっているような、共有感覚がある。蓮華の茎が命のきずなとなって、互いを引き寄せあっているように思えた。

(撮影:奈良 仁、1994)