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パエーシ王と沙門ケーシの問答

大西啓一

※文中の番号はAngasuttaniのRayapasenaijja 中の章番号です。なお、パエーシは他にも実験を行っており、壺のなかに閉じ込めて殺した男の霊魂を見ようとしたりしていますが、長くなりますので、カットしました。


762 そこでパエーシ王は、幼くして出家した沙門ケーシにこの様に言った。

「尊者よ、この明解な例示があります。さらにこの理由によっても(そういう理由には)決して到達しません。

尊者よ、私は別のある時に、この様に野外の議事堂で、多くのギルドの長、司法官、藩王、都城警護官、商人、資産家、富裕者、豪商、将軍、隊商主、大臣、宰相、占星術師、門衛官、同居の者、侍従、侍従長、大小都市への使者、国境警備官達によって、取り巻かれた者として、共に(時を)過ごしていました。

そこで、私の都城警護官達が盗賊を連れてきました。
そこで、私はその男を、正に生きたままで、計量しました。
計量して、表皮を切断することなしに、命を奪いました。
そして死人を計量しました。

その男は生きたまま計量され、死んでまた計量されたけれども、
いささかも、(重量に)異同、又は変化、又は減少、又は軽少、又は重化、
又は軽化は無かったのです。

尊者よ、もし、その男が生きたまま計量され、死んでからまた計量され、
何らかの(重量の)異同、又は変化、又は減少、又は軽少、又は重化、
又は軽化があれば、その後には私は(あなた方の理論を)信頼し、迎え入れ、
信用すべきでしょう。
『魂と身体は別であり、身体即ち魂であることは決してない』
というように。

しかし尊者よ、その男の異同・・・軽化はないから、そのことから
私の信念は確立しています。
すなわち『身体即ち魂であり、魂が身体と異なることは決してない』と。 」


763 そこで幼くして出家した沙門ケーシは、パエーシ王にこの様に言った。

「パエーシよ、何時かかつて、あなたは袋を吹き、膨らませたことがありましたか?」

「ええ、ありました。」

「パエーシよ、その一杯に吹き膨らまされた袋を計量し、一杯でない(袋と比較)計量したとしても、何らかの異同、又は変化、又は減少、又は軽少、又は重化、又は軽化があるでしょうか?」

「いいえ、その様な事は決してありません。」

「パエーシよ、正にこの様に、魂にとって、生きたまま計量される、又は死んで計量される、という(条件に)依って軽重はなく、いささかの異同、又は変化・・・軽化はないのです。

パエーシよ、『魂と身体は別であり、身体即ち魂であることは決してない』
ということを、あなたは信じなさい。」


764 そこでパエーシ王は、若くして出家した沙門ケーシに、この様に言った。

「尊者よ、この例示は明解ですが、しかしこの理由によっても(そういう結論には)決して到達しません。

尊者よ、私は他日、ある時、野外の議事堂で、多くのギルドの長、司法官、
藩王、都城警護官、商人、資産家、富裕者、豪商、将軍、隊商主、大臣、宰相、
占星術師、門衛官、同居の者、侍従、侍従長、大小都市への使者、国境警備官達によって、
取り巻かれた者として、共に(時を)過ごしていました。
そして、私の都城警護官達が、持ち去られた盗品であり、証拠品である首飾りと共に、
後ろ手に縛られた盗賊を連れて来ました。

そこで、私はその男を隅から隅までよく観察しましたが、決してそこには魂を見ませんでした。
そこで私はその男を二種類に分割しました。
分割して、隅から隅までよく観察しましたが、決してそこには魂を見ませんでした。

この様にして、三種類、四種類、数えられる限りの種類に分割しました。
分割して、隅から隅までよく観察しましたが、決して他ならぬそこには魂を見ませんでした。

尊者よ、もし私が、二種類、または三種類、または四種類、
または数えられる限りの種類に分割された
その男の中に、魂を見ていたのであれば、
その後には、私は(あなた方の理論を)信頼し、迎え入れ、信用すべきでしょう。
『魂と身体は別であり、身体即ち魂であることは決してない』というように。

しかし尊者よ、私は、二種類、または三種類、または四種類、
または数えられる限りの種類に分割された彼の中に、魂を見なかったのですから、
そのことから、私の主張は確立しています。つまり
『身体即ち魂であり、魂が身体と異なることは決してない』と。」


765 そこで若くして出家した沙門ケーシは、パエーシ王にこの様に言った。

「パエーシよ、あなたは、この様な軽薄なことより、さらに愚か者なのです。」

「尊者よ、一体何が軽薄なものなのですか?」

「パエーシよ、例えば、森の利益を得る者、森に依って生きる者、森を追い求める者、
と名付く或る男達が火と、火の容器を取って、薪を採るために森林に入っていきました。

そこでその男達は、村無き処、人跡の絶えた処に、長い行路の後に、森林の中の
或る地点に到達して後、一人の男にこの様に言いました。

『神々に愛されし者よ、我々は、薪を採るために森林に入って行きます。
それ故に君は、火の容器から火を取って、
我々の食事を準備してもらいたいのです。
そして、そうしていて火の容器の中の火が絶えたなら、
その後には、君は薪から火を取って、我々の食事を準備してもらいたいのです。』

と、言いなして、薪のある森林に入って行きました。
そこでその男は、その後ほんの少し間をおいて、
『かの男達の食事を準備しよう』と言いなして、
火の容器の方へと近づき、火の容器の中の火が絶えているのを見ました。

そこでその男は、薪の方に近づきました。
近づいて後、その薪をすべて遍くよく観察しました。
しかし決してそこに火を見ることはありませんでした。
そこでその男は、ベルトを締めて、斧を執りました。
その薪を二種類に分割しました。
そしてすべて遍く観察しました。
しかし決してそこには火を見ることはありませんでした。
この様にして、三種類、四種類、数えられる限りの種類に分割しました。
(そして)すべて遍く観察しました。
しかし決してそこに火を見ることはありませんでした。<

そこでかの男は、その二種類に分割され、又は三種類に分割され
、 又は四種類に分割され、又は数えられる限りの種類に分割された薪の中に
火を見ないまま、くたびれて、挫けて疲労困憊して、意気消沈しつつ、
斧を一方の端に放擲しました。
ベルトを解いて、解いた後に、この様に言いました。

『ああ、私によって、かの男達の食事は決して完成されない』と、言いなして,
意志が打ちひしがれた者、憂いの海に沈んだ者、
手の平で顔を覆った者、苦悩に耽り至った者、大地に視線を落とした者は、
物思いしているのでした。

すると、かの男達は薪を切って(戻ってきて)、かの男に近づき、
意志が打ちひしがれた者、憂いの海に沈んだ者、
手の平で顔を覆った者、苦悩に耽り至った者、大地に視線を落とした者で、
物思いしている、その男を見て、見た後に、この様に言いました。

『神々に愛されし者よ、意志が打ちひしがれた者、憂いの海に沈んだ者、
手の平で顔を覆った者、苦悩に耽り至った者、大地に視線を落とした者で、
ある君は、何を物思いしているのだい?』

そこで、かの男はこの様に言いました。

『神々に愛されし者達よ、君達は薪の採れる森に入って行く折りに、
私にこの様に言いました。
「神々に愛されし者よ、我々は、薪のある森林に入って行きます。
それ故に君は、火の容器から火を取って、
我々の食事を準備してもらいたいのです。
そして、そうしていて火の容器の中の火が絶えたなら、
その後には、君は薪から火を取って、我々の食事を準備してもらいたいのです。」

と、言いなして、薪のある森林に入って行きました。
そこで私は、その後ほんの少し間をおいて、
「かの男達の食事を準備しよう」と言いなして、
火の容器の方へと近づいて、・・・物思いしているのです。』

すると、かの男達のうちで、
利口で、有能で、実利を得た、巧みな、大いなる知恵を持つ、教育された、分別を得た、
教示を獲得した、ある男が、かの男達にこの様に言いました。

「神々に愛されし者達よ、私が食事を準備する間に、
君達は沐浴し、香油を擦り込み、額に(邪悪なものを)払う吉祥の印をつけて、
すぐに戻って下さい」と言いなして、ベルトを締めて、斧を執り、
(火鑚り)矢を作り、(火鑚り)矢で鑚木を摩擦させて、火を点し、
火を燃え熾(おこ)させて、かの男達の食事の準備をします。

そして、沐浴し、香油を擦り込み、額に(邪悪なものを)払う吉祥の印をつけた、
男達は、かの男に近づきます。
そこで、かの男は、最上の快適な座席に着いた男達のために、その多くの食事である、
飲み物、噛む食べ物、味わう食べ物を持って行きます。
そして、かの男達は、その多くの食事である、
飲み物、噛む食べ物、
味わう食べ物を味わいつつ、様々に味わいつつ、すべて享受し、
すべて分配して、(時を)過ごしました。

食事を取った後は、口を漱いで、清潔にして、
最高に浄められた者達と成り、
かの男にこの様に言いました。

『ああ、神々に愛されし者よ、君は、二種類に分割され、
または三種類に分割され、または四種類に分割され、
または数えられる限りに分割された薪の中に、
火を見ることを望むという、
鈍く、愚かで、賢くなく、無分別で、教示を得ていない者だ』と。

パエーシよ、彼はこの事によって、この様に言われるのです。
パエーシよ、あなたは彼よりも愚かで軽薄であるのです。」