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Tangram

Tangerine Dream, Edgar Froese

Tangram 
ラジオでもしタンジェリンの音楽がかかたっとしても、誰かにとっては会話の下敷きでしかないわけだし、僕にとってはまだ十分実験的とは言えない。ラララ〜♪というのが好きな人たちのものさ。(コンラート・シュニッツラー

「僕は今のタンジェリンの音楽、そしてショウより、前の方がずうっと好きだったと言わなきゃならない。彼らは今、昔のようにオリジナルな音楽ではないことをやり始めたから。タンジェリン・ドリームがタンジェリン・ドリームをコピーしているなんて、おかしいと思わない? 彼らの初期のコンサートには全く肝をつぶしたよ。それは今までフランスで行われた電子音楽のコンサートの中で、最も素晴らしいもののひとつだった。14世紀に立てたれた大きなカテドラルで行われたんだけど、そこで五百人の人々は、まだ無名だったタンジェリン・ドリームのサウンドを聴いたんだ。全くファンタスティックだったよ。タンジェリン・ドリームは、音楽に大改革を起こしたと思うんだ。(ティム・ブレイク

以上、著名人? の発言。総じて「昔は良かった」。80年代のタンジェリンについては、雑誌などで好意的なレビューを読んだことがほとんどない。クリス・フランケは、80年代のTDについてこう語っている。

「ぼくらはもう実験的なものをしようとしなくなったんだ。今まで試みてきたさまざまな実験を推敲しているんだよ」

常に自分なりの何かを見つめ、実験を惜しまぬ連中からみれば、たしかに「軟派野郎」ともみてとれる発言だ。初期の彼らは、電子楽器という人体にとって未体験な音波形・倍音列を武器に、通常の時空間概念が無価値となる地平へ我々をトリップさせることを目指していた。ところが、80年代からのTDは、ヘヴィなシンセサイザー・エクイップメントから、逆にヒューマニティを抽出するという、逆説的かつ難儀な方法論を採用したのである。最近作は初期の作品と別に評価されるべき、などという評論も見受けられるのはそのためだ。

しかし、70年代の夢的な音群により、硬直しきった現代の合理的価値観、常識観念を取り壊したうえで、そこから新たに豊かな、そして無邪気な人間性を再構成していく作業としてみれば、少しも矛盾など無いのではないだろうか。TDは、人間が素直に感動できること(人間本来の姿に立ち返ること)のために格闘している。それをシンセサイザーというハイテクで、というのが彼らのユニークなところではないか。

しかし、いくらヒューマニティ云々と偉ぶったところで、前作「Force Majeure」(1979)のような稚拙きわまる仕事をいつまでも続けているわけにはいくまい。本作「Tangram」(1980)が起死回生の一発となりえたのは、やはりヨハネス・シュメーリンクという逸材が、タンジェリンの欠けたピースにピッタリとはまったことが最大の勝因であろう。(*1)タングラムは中国発祥のパズルの名であると同時に、Tangerine Dreamというパズルの完成形でもあるのだ。

(*1)彼らのベストアルバム「Tangerine Dream '70〜'80」のクレジットによると、80年の時点ではスタジオ・ゲスト扱いだったことがみてとれる。

by nara : 2005年11月27日 22:09