1979年当時、EGGのサウンドを評論家の方々がどのように受け取り、何を予見したのか、それはいま現実となったのかどうか、資料としての意義もふくめて抜き書きしておきたいとおもいます。
ユーロピアン・ロックの新しい展開--仲邨杳一さん
注目すべきレーベルが日本でも紹介されることになった。"The Most Progressive European Music Experience"をキャッチフレーズにするEGGがそれである。...
ぼくは、このカタログを見たとき、イギリスのヴァージン・レーベルを連想してしようがなかった。つまりこれはフレンチ・ロックという狭いカテゴリーだけのためのものではなく、そのキャッチフレーズにもあるとおり、ヨーロッパの最もプログレッシヴな音楽をトータルに紹介するという崇高な理念の元に出発したレーベルなのだ。本家ともいえるヴァージンは、結局経営上の問題から、創設当初のような実験的なグループやアーティストたちは次々と切り落とし...
その意味で、今日までとかく陽が当たらなかったフランスの、それも真にプログレッシヴなロック・ミュージシャンを中心に、ユーロ・ロックを意欲的に紹介していこうとするEGGは、これからの活動が実に期待できるレーベルなのである。(イグナチオ・ライナーより 1979)
感性の面から見たエッグの革新性とその意義--阿木譲さん
...このレーベル設立の意義は、ヨーロッパ人にとっては血とでもいうべきパンクやニュー・ウェイヴの動向以上に重い必然的な出来事だったのだ。それは産業革命以後、ヨーロッパ人が育んだテクノロジーの究極的な音楽、テクノ・ポップ・ミュージックへの科学的帰結とも言えるだろう。
もし空を飛べたらと、人間が宇宙に馳せたロマン、エッグ・レコードから発表される彼らの音楽のすべてには、そのモダーンでポップで、シックなロマンが今だに、色鮮やかに息づいている。
80年代へ、21世紀へ繋がれるそれらのロマンを、彼らはエレクトロニクスという電子によって、人工的に自然にジオメトリックなシンプル模様を描き、耽美な世界に僕らを誘う。それは暗い80年代のヨーロッパ人に放つ一条の水晶にもにた光なのだ。
いや、ヨーロッパだけでなく世界のロック・ミュージックの主流として君臨するのは歴史が証明してくれる。
今や世界は電気から電子への道を歩み始めたのだから。
フランスに於いて、アルバムの売り上げがシングルにまさったのは1976年からだという。
フランスのロック・シーンは今日やっと始まったばかりなのだ。そしてエッグ・レコードの設立もこの年である。総ての舞台装置は今やっと揃ったようだ。(同)
EGGとシンセサイザー テクニカルな面から見た革新性とその意義--加藤しげきさん
個性化とメディア・アート化
現代の音楽、特にポップ系はサウンドの個性化が重視される。一方アコースティック楽器ではサウンドの変化、バリエイションには自ずと限界がある。シンフォニー・オーケストラは楽器の組み合わせによって音のキャラクターは変化を持たせられるものの、やはりシンフォニーの音でしかない。ひるがえってシンセサイザーはどうだろう?
電子回路技術は基本波形を各種エフェクターによって様々に変化させ、合成させて、既成楽器にはない音のキャラクターを創造できる。音の個性化がポップ系音楽までますます進むとすればこうしたメリットが活かされて、今後シンセサイザーの位置づけはますます重要なものになっていくにちがいない。
又、一方シンセサイザー音楽が、ノン・ステージ・ミュージックの方向を指向していることもたしかで、この音楽の創造活動が、かつての電子音楽や具体音楽のようにステージ演奏による発表がしにくくなっている...必然的にこの音楽は電子メディアを必要とするメディア・アート的性格を多く持つようになり、ポップ全般がもつメディア・アート化傾向の最先端を行く音楽となることも否めないところである。
しかし、一方でこの音楽が、映像、色彩等といった他の要素をとりこむことによって、新しい総合性芸術としての可能性を従来の音楽とは異なった場への展開を暗示するものがある。
...EGGを中心とするムーヴメントは、メディアによって新らしい場を共有しようとする、電子時代の芸術と呼ぶにふさわしいものに育って行くと思われる。これらが再びステージに帰ってくる日には、会場そのものがテクノロジカルなメディアとして完成されたものでなくてはならないはずである。
新しい音響芸術の夜明けが、いまEGGのシンセサイザー音楽にたしかな手ごたえで実感される。(同)
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