Pinnacles
1983年のソロ第6作目。79年発表の「Stantman」で何かをつかんだフローゼはその後TDで充実した作品を量産、しばらくバンド活動に専念するが、個人名義では唯一のサントラ「KAMIKAZE 1989」を82年にリリース、翌年には彼のソロ活動の決算ともいうべき本作をだす
同年の「Hyperborea」と同じく、ドローンやペンタトニックといった、非西欧的なモードにシーケンスをからめていくという必勝パターンで最後まで押しとおす。エスニックサウンドを当時かなり聴きこんでいだであろうフローゼの研究成果といえるものだ
音を重ねすぎないスカスカ感も適度にあって、27年前の作品とはにわかに信じがたい今日性がある。エレクトロの新作だといって覆面リリースしてもじゅうぶんいける音だ
Pinnaclesは西オーストラリアの有名な観光地。フローゼはどうも砂漠フェチらしく、Stantmanのあのヘルメットをかぶり砂漠を歩いている写真(モニク撮影か?)も残されている。70年代後半の彼はシンセサイザーでヒューマンな音作りをめざすという逆説的なアプローチに着手するが、80年代は人間の感情や思考を超越した、厳しい自然のありようが創作意欲の重要なリソースになっているような気がする
Pinnacles
2005年、新たにリミックス、デジタルリマスタリングされた新盤が登場したが、蛇足とも思える余計なストリングシンセがバックに追加されており、オリジナルのもつ乾いた空気感、エスニックなスカスカ感が失われてしまった。この時リリースされたリミックス盤すべてにいえることだが、当時の音そのままを伝えるオリジナル盤が入手困難となっていることは実に大きな損失である
レコードであれば中古市場でまだまだ手に入ると思うし、妻モニク・フローゼによるジャケットデザインも冴えている一枚なので、彼女がアートワークを担当した最後のソロ作をぜひ直に鑑賞していただきたい。
1. Specific Gravity of Smile
2. Light Cone
3. Walkabout
4. Pinnacles
1983 Virgin Records 205-594
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