Hyperborea(流氷の詩)
永遠に太陽の沈まない常春の楽園、Hyperborea。極北の理想郷を古代ギリシア人はこう呼んでいた。白夜現象が異邦人を介してすでに伝播していたのかもしれない。Monique Froeseの手によるカヴァーデザインもおそらくこの神話をモチーフにしている。
「Logos」と「Poland」という二つのライブアルバムの狭間に位置する本作であるが、80年以降のTDはライブ盤とスタジオ盤との差がほとんどなくなり、単に拍手や歓声の有無くらいのものになっていく。クラフトワークとおなじく、TDもライブにそのまま持ちこめるスタジオ環境を整備しはじめた時期ではなかっただろうか
音は流氷というより赤道直下の乾燥地帯をおもわせる熱風音。エキゾチックな音色とフレーズ、リズムが交差する。フローゼが当時エスニック・サウンド(今だとWorld Music)に一番入れこんでいた時期の作品といえるかもしれない。5ヶ月前に録音された彼のソロアルバム「Pinnacles(名作)」から「Poland」までは特にエスニック色が強い気がする。しかしそこはやはりドイツ職人気質、ゆるみのない愚直な音だ。ドローンとエキゾチックな旋律が印象にのこる1曲目「No Man's Land」などまさにそうだが、Tangerineのお家芸ともいうべきワンコードでラストまで押しまくるところなど、"らしい"といえるのではないか。
本作を置き土産に十年にわたるVirginとの契約を解消、新レーベルJive Electroに移籍する。
- No Man's Land
- Hyperborea
- Cinnamon Road
- Sphinx Lightning
Virgin V2292(1983年8月録音)
2008年にHyperborea 2008 としてリミックスされリリース。ジャケはフローゼの手によるダリエスクなもの
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