...細い月のでる晩に家路へと急ぐ、自転車に乗った男の姿がある。いかにも北欧らしい夜の絵が描かれたジャケットに包まれた、彼らのこれは1stアルバムなのである。
小雨のふる北欧の山々--そんな静かな風景を想いながら、僕はこのアルバムによく針を落とす。熱いコーヒーをすすりながら、寒い冬の夜に聴くラグナロックには、又、格別の味がある...(山崎尚洋 「MARGUEE MOON VOL.8 特集・香りの音楽 P41 1982」より)
山崎さんの書いたこの一文が、北欧のジャズ・ロック・グループ、ラグナロクとの馴れ初めである。いまあらためて読みかえしてみても、このアルバムにただよう空気というものをよく伝えていて、つけ足すことが何も思い浮かばない。
大学時代の友人にいわせると、当時のぼくのアパートを思いだすとき、かならずといっていいほどこのジャケも回想されるのだそうだ。それくらい愛聴していたんだとおもう。
あれから二十年。いまでもよく「Ragnarök」に針を落とす。そう、ちょうど今日みたいな底冷えのする雨の日に。あのころと変わらず、深煎りの熱いブラックコーヒーを飲みながら。
ラグナロクは、この後、
「Fjärilar i magen」(1979)
「Fata Morgana」(1981)
「3 Signs」(1983)
をリリースしたのち、いちど沈黙するが、1991年になって「Well」を発表する。そこには1stに参加していたオリジナル・メンバーが一人もクレジットされていなかった。そして、Silenceレーベルから1stが再発されたのが1995年。2nd〜4thは廃盤のままであるが、やはりこの1stだけはぼくみたいな根強いファンがいたということであろう。
76年でこの渋い音はやはりセールス面でもぱっとしなかったのかもしれない。ECMあたりから出ていればまたべつのリスナーに支持されたのかもしれないが...セカンドからはしだいに激しいロック・サウンドを取り入れたせいで、1stのもつ静かな響きは失われていった。
1stの再評価にまた自信をとり戻したのか、近年になってライブ活動も再開され、2008年にはふたたび初期メンバーによる「Path」を発表する。1曲目「Mirrors and Windows」からは、Welcome Home!とでも声をかけたくなるような、古いファンには聞き覚えのあるあの懐かしい響きがきこえる。1stとおなじくPeter Bryngelssonのアコギから入るあたりは、メンバーもじゅうぶんに意識しているのかもしれない。
ちなみにジャケットの水彩画は、澄みきった夜空を描いたものとばかりいままで思いこんでいたが、裏をみると工場の煙突がはき出す黒煙だとわかった。B面2曲目の「Fabriksfunky(Factory Funk) 」となにかしら関係があるのではと考えてみたが、このたおやかな音のなかにあってはどうでもいいことであろう。
Ragnarök
Peter Bryngelsson, Peder Nabo, Henrik Strindberg, Staffan Strindberg, Thomas Wiegert
Sid 1
Farväl Köpenhamn(Goodbye Copenhagen)
Promenader(Walks)
Nybakat bröd(Freshbaked Bread)
Dagarnas skum(L'Ecume des jours)
Sid2
Polska från Kalmar(Reel from Kalmar)
Fabriksfunky(Factory Funk)
Tatanga Mani
Fjottot
Stiltje/Uppbrott(Calm-Breaking up)
Vattenpussar(Puddles)
Silence SRS4633(LP)
Silence SRSCD 3613(CD)
Ragnarök
オフィシャル・サイト。最新アルバムとこの1stアルバムを試聴できる。PDFでギター譜も公開している。
We Love Progressive Rocks
Office Chipmunkさんによる紹介
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