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新年のあいさつにかえて「記憶の灯り」

新年あけましておめでとうございます。賀状やメールをくださったみなさん、ありがとうございます。年末年始を病院で過ごすのは骨髄移植をした年いらいですから、6年ぶりになりますでしょうか。本来であれば一人ずつお礼のはがきでも書きたいところですがこういった事情ゆえどうぞお許しください。

旧年は自分にとってどんな一年であったか。微熱のアタマで考えたところ、漆黒に塗り固められた一枚のキャンバスが浮かび上がってきました。これはいったいなんなのかなと考えましたが、答えはカンタンです。絶望と苦しみという顔料で幾重にも塗り重ねられたキャンパスの下地だったのです。

これはまったくしょうがないと思いました。去年ほど苦しかった年は人生でもありません。完治の歓喜から再発の絶望へ。市川團十郎さんじゃないけどまさに無間地獄。それが最初のビジョンだったのです。

でもよく目をこらしてみますと、漆黒のなかに芥子粒のような小さい穴がいくつもみえます。さらによくみますと、淡い灯りが滲んでいます。光の回折現象によって穴の奥から漏れだした光が、まるで宇宙の辺境から地球に届いた星の光のように弱いながらもゆらぎのない光を放っています。

これはなんだろうと考えました。これは記憶の灯りなんだ。記憶が輝いているんだ。漆黒の一年のなかにも、輝く記憶が星のように点在しているんだと気づきました。

それはやりがいのある仕事であったり、魂を洗う音楽であったり、いろんな人からのいろんな助けであり、新しい出会い、友だちとの楽しいおしゃべりであったり、オーディオ研究やおいしいラーメン、おいしい珈琲、家族や姪っ子と語らう時間、ブログに書き殴る自分でした。ああ、こんなにもいろんなことをやった一年でもあったんだと気づきました。

病気持ちではあっても、病人ではない。誰が言ったかはおぼえてませんが、入院漬けの一年にありながら小さく輝いている自分もまたよく見えてきたのです。

もし地球からちょうど百億光年はなれた恒星αがあったとしたら、ぼくたちはいまα星の百億年前のすがたをみていることになります。さらにビッグバン説が正しいならば、この星は地球からどんどん遠ざかっていることになります。しかも現代宇宙物理学の最新の成果によれば、その速さはこうしているあいだにもますます加速しているのです。

ニンゲンが過去を振り返るときも同じだなと思いました。過去は猛烈なスピードで記憶から遠ざかっていきます(おにゃん子クラブとAKB48のあいだに何かあったよな? なんだっけ? )。しかも加速度的に。でも星がその過去のすがたを何万年かかっても地球まで届けてくれるように、ニンゲンの記憶も決して消えないのです。たとえそのほとんどが暗黒物質に呑みこまれてしまったとしても、どこかに必ずあるのです。

目をつぶって記憶の灯りを観測すれば、震災や政治的混乱という漆黒のなかにあっても小さな星々が輝き始めていることに誰もが気づくでしょう。

今年もはや2日が過去になりましたが、これにて賀状がわりとさせていただきます。
本年もよろしくお願いします。

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