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断章「タコ焼き」

「きのうnarajinが夢にでてきた」とかたまに電話口できいたりする。その出方としては、たいてい何かを食べているそうで、なかでもラーメンというのが最も高率であるらしい。

なかには「コロッケそばを食べていた」というレアな報告もあった。本人が一度も食したことがないコロッケそばなるものを、夢のなかではウマそうに啜っていたという。人サマの夢のなかに割り入ってまで長いものを好食しているらしい。

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自分は何をしているとき、いちばん生き生きしてるんだろう。自分はいったい何をしたいんだろう、自分の天職ってなんだろうと、誰しも一度くらいは思いを巡らせたことがあるとおもう。この手の話になっていつもきまって思いだすのは、「こんな生き生きしたnaraくんを見るのはじめてだ」と会社の上司から言われた、今から10年以上前の記憶である。タコ焼きを焼いていたときのことである。

何でも凝り性なわしが30代のころハマっていた「たこ焼き」の腕前を誰にも求められてもないのに披露せんとわざわざ会社にカセットコンロだの重い鉄製のたこ焼き板だのを持ちこんでなかば無理くり同僚に食わせたときのことだったと記憶している。千枚通しでタネを得意げに返す自分に酔い、よほど突き抜けた顔をしていたのだとおもう。逆にいうと、仕事中はよっぽど苦悶の表情を浮かべていたのだろう。

この話には後日談があって、しかもこれこそいちばん自分の性分というものを端的に表していると思うので書いておくと、どうも焼いてるあいだじゅう、ずっと歯を食いしばっていたようで、翌日は奥歯が痛くてまったく仕事にならず、前日の生き生きぶりとは真逆のションボリ具合であったのを記憶している。

プロ野球の選手がよく力が入りすぎて歯をダメにしたという話をよく耳にするし、テレビでもカラフルなマウスピースを噛んでバッターボックスに入る姿はいかにも強打者というかカッチョイイーと唸るものがあるが、タコ焼きで奥歯をもっていかれたニンゲンはプロの粉モノ業界でもそうそういないとおもう。

小事にも命を賭してしまう性癖はいまも変わらずで、結果が単に歯からサイニューインに変わっただけのことであろう。

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