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サンハウスの夜

ハンガーと干物

金曜日は風雨のなか弘南バス「キャッスル号」で仙台へ。片道5,090円のところを障害者手帳を使って往復5,100円にしてもらった。

宿は「天然温泉 萩の湯 ドーミー イン仙台駅前」。早割5,800円。洋室ながら引戸で部屋着は作務衣、屋上は露天風呂となっている。ビジネスと温泉宿が交配したいわゆる「ホテスパ」である。感染リスクがあると医者からは禁止令がでていたが、5年ぶりの温泉+サウナで長患いの関節痛をのばした。

たっぷりとした風呂桶につかると三鷹にいたころの自分を思いだす。なかなか風邪が治らず、深大湯につかってばかりいたからである。当時すでに杏林大学の医師から「骨髄異形成症候群」の宣告をうけていた。もって5年であろうと言われた。我欲に充ちていた当時の自分には辛すぎるリアルだった。三鷹の思い出とはつまり、漢方や温浴といった民間療法にすがりつき、這いずり回っていた不安なる自己である。

仙台に来たのは、骨髄バンク研修会出席のほかにもうひとつ、とある小さな居酒屋に顔を出すためだ。店の名前は「サンハウス」という。山形の古民家を移築したという古雅な佇まいながらロックやレゲエが鳴り、うまい肴と酒をだす。ちょっとした小さな椀から明かりまで、すべてぼくのArtempoな嗜好を満足させるこの世で唯一の居酒屋なのだ。住宅地のなかに潜伏するようにして佇むこの店は、仙台時代の思い出がぜんぶ詰まったタイムカプセルだといってよい。

マスターのOさんには、入院中差しいれてもらったボブ・マーリィのお礼もあるのだが、やはり生きている現物そのものを差し出すことが何よりであろうと考えた。必ず歩けるようになってまたぶらりと寄るから、そのときまで店は閉めないでくれと病床からハガキを送ったこともある。骨髄バンクの所用で仙台に来ることになったのもおそらく、見えない何者かのはからいであろうとおもう(しかも交通費支給)。

仙台の友と待ち合わせをし、あとからもう一人加わった。マスターはいつになく多弁であった。店内には自作の写真があちこちに飾ってあり、フォトコンの賞状が添えてあった。世間の評価など我一切関せずといった風のあのマスターがである。

近ごろは本ばかり読んでいるという。とくに科学書がいい、現代科学は宗教の領域に到達した、「気」の流れも科学的に解明されると興奮気味に語っていた。本なんて読まないと話してたあのマスターがである。

おたがい写真好きであるから、津軽の写真家、小島一郎の話に花が咲いた。マスターは「作品をつくろうとすることより、写真を通してよい魂の持ち主になりたいと思っている」という小島の言葉をあげて、オレもそうありたいと言った。ぼくも頷いた。

こうして5年越しの夜は静かに成就した。

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