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亡父ノート3 かくも早き流れのなかに

弘前は朝から雪。

安く譲り受けたFF式の小さな中古ストーブを業者に取り付けてもらった。小屋から二階まで灯油タンクを運ぶのがちょうどいい冬のリハビリとなっている。

今回もまた父のカード箱から数枚を取りだし、抜き書きしようと思う。

かくも早き流れのなかに

なんとなく、きのうは過ぎて今日になり、今日も暮れてやがて明日があける。その明日も、たぶん今日のように暮れて、そして、気がついてみたらもうすぐこの年も暮れていって、また新しい年がやってくる。

かくも、人生は早く流れ、かくも、うつらうつらと昨日を生き、今日を生きて、明日もまた、生きてゆくわれらよ。この人生の早き流れに、ふと立ちどまってこのへんでなにか、自分の歴史に残る何かを、やりとげてみようではありませんか。
『暮らしの手帖 No51』P5

人生を考える者

人間は誰でも、人生を一回だけしか体験することができない。やり直しはきかない。そして毎日毎日が、砂時計の砂がこぼれるように確実に、規則正しく失われていく。このあたりまえのことを忘れないで、一日一日を大切にしながら生きていこうと考えている人は少ない。そしてそれを実行している人はなお少ない。

自分の人生について考える者は自分以外にはない。自分の人生を大切にする人は自分以外にはないのである。(P50)

未見の己れ

人間は誰でも「未見の己れ」を持っている。自分自身のまだ知らない、自分自身の可能性を信じることである。今までにやってきたことの軌跡を、将来にそのまま投影して、自分のこれからの可能性はこれきりだと考えている人は、実際にそのとおりのことだけしか力を発揮することはできない。その人の限界とは実はいまだ見ざる自分自身についての想像力の限界のことなのである。ライフワークとは、いいかえれば「未見の己れ」を限りなく追求することだといってよい。引き出し役の主人公は誰でもない、自分自身なのだ。(P20)

残された貴重な人生

「残された貴重な人生、こんど失えば二度と戻ってこない人生を、一日でもおろそかにしないで生きていこう。毎日を自分なりに納得のいく生き方をして、死ぬときに決して後悔することのない人生を生きていこう。」そう決意して、長い療養生活から社会復帰したのである。(P28)

ページ番号を打っているものはすべて、元IBM常務の井上富雄さんの『ライフワークの見つけ方  』から抜き書きされたものらしい。前にも書いたが、井上さんも若くして病に倒れ、長い長い闘病生活を送られた方である。彼の書くものが末期ガンにあった父の心に響き、さらに息子の心にリンクしたというのはやはり、「病」という共通項なくしてはありえなかったであろう。

書物に記された言葉を自分自身の身に引き寄せ、体に染みこませて、はじめて己れの言葉となる。言葉というものは、こうして人から人へ永遠に受け継がれていくのであろう。その逆もまた、日常われらがよく接する事実である。

バトンをわたす

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